その名にちなんで 【発見】

ジュンパ・ラヒリ著
The Namesake (2003) 小川高義 訳

■あらすじ
インドからアメリカへの移民夫婦、アメリカで生まれ育ったその子供たちの物語。

アショケはアメリカの大学で工学系の博士号をめざしているところ。
一時帰国して見合い結婚したアシマと共に渡米し、誕生した息子をゴーゴリと名づけた。
正式なものが決まるまでの仮の名前のつもりが、いろいろあってそのままになってしまう。
成長して名前に違和感を持つゴーゴリは名前を変えるが、父がなぜこの名前をつけたのか、経緯を知って衝撃を受ける・・・。

■雑感
物静かな夫アショケ、アメリカ暮らしになかなか馴染めない妻アシマ、息子ゴーゴリと娘ソニア・・・両親と子供たちは価値観が違うものの、激しくぶつかり合ったりはしません。
やや距離を置いて、電話があると煩わしく感じながら、仕方ないなと思いやったりもします。

著者の短編を読んだときにも思いましたが、ちょっとした描写で脇に登場する人物像が浮かび上がり、感情移入しにくい人の考えも伝わるような視点の変化があって奥深いです。

2006年にミーラー・ナーイル監督が映画化したものを先に観ていました。
映画ではアシマの、小説ではゴーゴリの視点が主でした。
ボリューム的に映画は小説の半分で、後半を省略してシンプルにまとめた感じです。

■編みどころ
お見合いの席で、アシマの母親は娘が編み物上手であることを自慢します。
実は編みどころはあまり無く・・・「編んだセーター」といった表現が多いです。
映画版では編みシーンがあるのですが、こちらは手元が映っていないという悩ましい登場ぶり。
(この場面は小説では違うことをしていました)

短編集『停電の夜に』中の「三度目で最後の大陸」にもセーターを編む妻が登場していたので、著者の経験の中にも編み物があったのかな・・・と想像しています。
英国の影響のせいか、インド(関係の)映画からは意外と編み物が発見できます。

明治時代の翻案1冊

『幽霊塔』 黒岩涙香

かなり前から読み始めていたのですが、何度も中断してやっと読み終えました。
最初は面白く読んでいたけど、事の成り行きに予想がついてからも長々と大仰な物言いが続くのに閉口してしまって・・・。

『幽霊塔』はイギリス人女性アリス・マリエル・ウィリアムソン作『灰色の女』の翻案です。
当時はまだ外国人の名前に馴染みがないせいか、舞台は英国なのに名前だけが日本風に変えられています。主人公は丸部道九郎、婚約者お浦、ヒロイン松谷秀子といった具合。
でも主要な人物以外はそのままだったりしてちぐはぐです。
まあ、現代でも外国人の名前はわかりにくいですからね。

江戸川乱歩がこれを更に翻案しているので読んでみようかな。
そういえば天知茂が明智小五郎のドラマ『江戸川乱歩の美女シリーズ 』の「大時計の美女」が『幽霊塔』(『時計塔の秘密』?)を基にしていたけど、こんな話だっけ? とか、原作の『灰色の女』も興味あるし・・・などといろいろ見ていたら、なななんと『幽麗塔』なるコミック化もされているのですね。
全然知らなかったのでぶったまげました。
原作者が見たらぶっ飛びそうな内容だけど、これはこれで面白そう。
乱歩のおかげか、本国より知名度があるのでは・・・。

アンソロジー1冊

『影が行く ホラーSF傑作選』 P・K・ディック、D・R・クーンツ他

中村融 訳

古いけど古臭くない、粒選りの作品集だと思います。
有名な作家揃いだけど本邦初訳も多く、読んだことがないものばかりでした。

映画『遊星からの物体X』の原作である「影が行く」が目当てで、両者の違いなども興味深かったのですが、物体の咆哮について “ドライアイスを金属で押し潰した” というような表現がされていて、ここからあの音が作られたのか・・・と感慨に浸ってしまいました。

その他の作品も文章から情景が思い浮かび、映画を見たような気分で読み応えありです。

アウトランダー2冊

「炎の山稜を越えて(1)(2)」 ダイアナ・ガバルドン

A Breath of Snow and Ashes (2005) 加藤洋子 訳

『アウトランダー』シリーズの17、18冊目です。
相変わらず試練があり、それを乗り越えて結びつきが深まり・・・でも着実に時が経ってゆきます。
将来起こることがわかっていて、でも確実ではなく変わるかもしれないので目を離せません。
読者を飽きさせないのが巧いんだな~。
編み物はこれといって登場しませんでした。

今回、ある葬儀の場面に “罪食い人” が出てきます。
映画『悪霊喰』ではカトリックの異端として描かれていたのに対し、『アウトランダー』の中ではプロテスタントの一派の葬儀に登場します。

そもそも『悪霊喰』の原題に “Sin Eater” もあり、罪食い人のことで・・・。
そういう目で調べてみると “The Last Sin Eater” (2007) という映画が見つかり、ウェールズからアメリカへ移住した人々の物語で、『アウトランダー』よりだいぶ後の時代(だから最後の?)でした。
ウェールズとスコットランドという違いはあるけど、罪食いというものはケルトの風習と関係あるのかもしれません(要調査)。


『アウトランダー』シリーズは2014年に米ケーブル局のStarzでドラマ化されます。
ジェイミー役に決まった Sam Heughan という人を知らなくて、素の画像を見てもピンと来なかったけど前評判は良いみたい。他はどんな人になるのか・・・まあ、心配しなくても変なキャストだったら大勢のファンに袋叩きにされそうだから大丈夫でしょう。
それより編み物が登場するかどうかを心配しなくては。

あと気になるのは “ムームフム” とか “ムムフム” “フムフ” などのニュアンス!
日本だったら「うん?」や「う~ん」なんていう場面で使われる、少しうなるような鼻に抜く感じかな?なんですが、カタカナで書かれると何のことやら。
横山光輝『三国志』の「ふむう」が思い浮かんでしまって、まるでロマンチックじゃないんです。
相槌を打つときの “uh-huh”(アーハーとかンーフー?)と同じようなイントネーションではなかろうかと思っているけど、ぜひ本物を聞きたい・・・。
これとは別に「スコットランド音を鳴らし」などという表現も出てきます。
ちょっともう~~、それどんなのですか? すごく聞いてみたい!

映画の原作

『素粒子』 ミシェル・ウエルベック

Les Particules élémentaires (1998) 野崎歓 訳

映画で興味を持ったので原作も読んでみました。
部分的には忠実な映画化だけど、全体としては別物かな・・・。

映画は兄弟の物語というだけで終わってしまい、弟の研究云々というのは後日談かおまけみたいな感じで、それほど具体的には考えずぼんやり流していました。

小説はむしろ逆で、兄弟の物語(を通して描かれる現在の社会)がほとんどを占めているにもかかわらず、弟の研究により変わった世界のプロローグという感じなのです。
よって、より後の世界のことや現在の前の世界のこと(あまり筋書きに触れたくないので漠然としすぎですが)に思いを馳せるという感覚です。

小説を気に入っている人にとっては、ドラマの部分だけを抜き出したような映画では作者の意図が伝わらず、とても失望させられたんじゃないかと思います。
でも映画から入ってみると、こういう話だったのかとかえって感慨深いものがありました。

小説だけ読んだのではどうだったろうかとも思いますが・・・それは両方を同時に体験できないのでわかりません。一般論としては映画を先に観ていると、その映像で小説が展開するので受け入れやすく、小説を先に読んでいると、自分の頭で映像化したものとのギャップがあって映画を否定しがちな気もします。まあ、作品によるのでいろいろ考えても仕方ないか。

この作品に関しては映画→小説の順で、私の場合は良かったと思います。
(小説はヒッピーの流れを汲む性の話が映画より多く、その辺にまったく興味を持てない人はどう感じるのか気になりました)

編み物の件は・・・ありました、確かに。
でも映画では編んでいるシーンがあるから発見!と言えるけど、小説では「ポンチョを編んでいる」だけなので厳しいかな~。ちょっと残念、というより映画がそこを省いていないのが奇跡的?

妻たち原作

『ステップフォードの妻たち』 アイラ・レヴィン

The Stepford Wives (1972) 平尾圭吾 訳

枚数は少なめです。映画で概略がわかっているのですんなり読めました。
やはり結末の描き方が大きな違いでした。
小説は直接的な表現は避けているのに、映画では具体的に見せています。
それで作品の本質が変わるというわけではないけど、ちょっと時代を感じてしまう印象も。
でも映画(当然1975年版)ならではの良いところも多いので、両方セットがいいかな・・・。

青雷の光る秋 【発見】

アン・クリーヴス著
Blue Lightning (2010) 玉木亨 訳

■あらすじ
ペレス警部は恋人のフランとともに、故郷であるフェア島に帰省した。
初めてのフェア島でペレスの両親と会うことに緊張していたフランも、フィールドセンターで開かれた二人の婚約パーティで楽しいひと時を過ごす。
ところがその後、職員の女性が殺害されていた・・・。

■雑感/編みどころ
「シェトランド四重奏」の最終章です。(続きがあるけれど、一応区切り)
詳細な記述はないものの、編み物はちょこちょこ登場。
でも物語はそれどころではない展開になってしまいます。。。

このシリーズは、一作目の『大鴉の啼く冬』の紹介文に「真っ赤なマフラーで首を絞められ」とあり、舞台がシェトランド島となれば編み物が登場しないわけがないと思って読み始めました。
その期待に違わず、主人公のペレス警部はフェア島出身なのになぜかラテン系・・・それは島に編み物を伝えた(かもしれない)スペインの無敵艦隊の末裔であるという設定であっさり虜に。
彼と事件を通して知り合ったフランとの仲が静かに進展するのも良かったし、島の気候風土や住民の感覚も伝わってきて楽しく読んでいましたが、シリーズが終わってしまい残念です。
この終わり方からの続編がどんなものか、かなり気になっています。

まだ一作も読んでいなくてこれからという方は、ぜひ出版順に読んでください。
季節で言うと 冬 夏 春 秋 の順です。


なぜか第三作目からドラマ化されているのですが、ペレス役が「プライミーバル」なんかに出ていたダグラス・ヘンシュオール・・・外見はイメージと違うけど果たして? 見てみたい!
ドラマにはきっと編み物も登場しているだろうから要チェックです!

シバレン1冊

『お江戸日本橋』 柴田錬三郎

遠山景元や鼠小僧次郎吉なども登場する伝奇小説です。
柴田錬三郎の映像化されたものは見ていても、小説を読むのは初めてかもしれません。
主人公は眠狂四郎っぽい雰囲気があるけど、そこまで無頼でも虚無的でもなく、剣に憑かれたような役は別の登場人物に譲っています。
最初は何人もの美女に惚れられる主人公が嫌味たらしくも思えますが、女性をむやみに泣かせたりしないし(勝手に泣くことはあり)、周囲の人たちも人情味があり気風が良かったりで、意外にも爽やかな優しい物語でした。

映画の原作1冊

『ゼロ時間へ』 アガサ・クリスティー

Towards Zero (1944) 三川 基好 訳

映画『ゼロ時間の謎』(2007) で興味を持ち、原作も読んでみました。
すんなり読みやすかったのは予備知識があったからかも。

映画でスッキリしなかった箇所は、やはり原作にあるものが削られているせいでした。
謎とは関係ないけど、最後の締めくくりとも言えるエピソードも映画にはありません。
観てから読んだので意外さがあって良かったけど、読んでから観たらどうなんでしょう?
映画には映像ならではの雰囲気とコミカルな部分もあって、削られているから駄目とは思いませんけどね~。

知らなかったのですが、このお話はドラマのミス・マープルもの(ジェラルディン・マクイーワン版)としてリメイクされていました。DVD「アガサ・クリスティーのミス・マープル VOL.11」に収録されていて、編みシーンがどどんと表紙になっております。

この版は真面目にチェックしていないので(以前TVで見たとき画質がクッキリすぎて引いた!?)、
編み物発見!ついでに最初から見てみますか・・・。

燃ゆる十字架のもとに(3)(4) 【発見】

ダイアナ・ガバルドン著
The Fiery Cross (2001) 加藤洋子 訳

『アウトランダー』シリーズの15、16冊目です。
最後に気になる出来事があり、次への興味を繋げています・・・。

詳細な記述はありませんが、(3)に少し、(4)に何箇所か編み物が登場。
視力を失っていても完璧な編み物をする登場人物が、災難のため動揺して間違えていたりします。