追いつかない読書メモ

先週は雑用が多くて更新できませんでした。
だいぶ前に読んだ本の記憶がなくなりそうです。

『宮本武蔵』 吉川英治文庫(講談社)


映画は主演が三船敏郎、中村錦之助(萬屋錦之介)、高橋英樹と観ましたが、三船版が標準で、錦之介版は余計な話が多い、高橋英樹版はやや奇を衒いすぎかなどと思っていました。ところが原作を読むと印象が全然違ってびっくり!

錦之介版は余計な話どころか、それが原作に忠実だったことがわかりました(忠実なのがいいとも限りませんが)。内田吐夢が変なものを撮るはずがなかったのですね。
高橋英樹版は、読む前はちょっと変わってるけどありかも?という感想でしたが、読後はおばばとお通さんの結末が作者の意図と違いすぎて・・・面白い部分も無いことはないんですけど。
三船版は原作を読んでいない人でも楽しめる、錦之介版は読んでいないと面白くない、高橋英樹版は原作と比べて驚いてほしい、という感じです。

NHK大河ドラマの『武蔵 MUSASHI』は、いろいろ問題があったらしく再放送もDVD化もされていません。当時は興味なかったけど見られないとなると見たくなります。

パトリシア・ハイスミス短編 【発見】

短編集の中に編み物が登場していました。

「うちにいる老人たち」

『黒い天使の目の前で』 (扶桑社ミステリー)米山 菖子 訳 に収録

ホームから老夫婦を家に引き取って世話をするボランティアがあり、これを良い考えだと思ったロイスとハーバートの夫妻が直面した現実とは・・・。

マミーとアルバートというフォースター夫妻を引き取りますが、彼らの悪意に満ちた(としか思えない)所業に振り回されます。現実にありそうな感じです。
マミーは編み物が好きで、編んだドイリーや何かをロイスにプレゼントします。


「狂気の詰め物」

『ゴルフコースの人魚たち』 (扶桑社ミステリー)森田 義信 訳 に収録

死んだペットたちを剥製にして庭に置いている妻。新聞社が取材に来ると聞いて夫は大慌て。こんなことが世間に知られるなんてとんでもない・・・。

夫は妻の趣味を快く思っていなかったのに表沙汰にならないうちは黙認していたわけで、妻を理解しようとしてなかったの?世間体がそんなに大事?と、これも中身が違えば現実にありそうです。
日々仕事に出ているわけでもない彼女にとっては、女性教室で教えるほどの腕前だった編み物をのぞけば、剥製がほとんど唯一の関心事だった。
編み物に専念すればこんな事態にはならなかった?

恋のつぼみがほころぶとき 【発見】

デビー・マッコーマー著
The Shop on Blossom Street (2004) 岡本香 訳(MIRA文庫)

■あらすじ/雑感/編みどころ
購入してみるまでハーレクイン社の本だとは気が付きませんでした。よくわかりませんがいわゆるハーレクイン・ロマンスとは違う系統のシリーズなんでしょうか?

毛糸店を開いたリディアと、編み物教室に応募してきた年齢も境遇も様々な3人の女性の物語です。あらすじは私が書くよりも出版社のページのほうがわかりやすいです。立ち読みもできます!

毛糸屋さんが舞台の小説といえば、映画化されるかもと話題になったケイト・ジェイコブスの『金曜日の編み物クラブ』がありますが、正直言って私は物語も編み物についてもそれほど良いと思いませんでした(もうあまり憶えていませんが・・・)。

こちらは『金曜日・・』とは比較にならない手練れの作といった感じです。
登場人物の誰かには共感できるだろうし、嫌な気分になることもありません(私が言うのもアレですけど)。物足りない向きもありますが、さらりと読めて得るところもあります。まあ、何より編み物のことがしっかり描かれているのが嬉しいんですけどね~。

この The Blossom Street Series は11作まで出ているようですが、翻訳されているのは3作です。すぐに読めるので2作目の途中まで来ましたが、1作目と同じくリディアと編み物教室(今回は靴下のクラス!)の3人の生徒の話を軸に、前回の登場人物たちの近況が織り交ぜられもう連ドラ状態。全部翻訳してくれないと欲求不満になりそう。

ブラックな話も大好きですが、こういうハッピーエンドものも良いですね。
表紙を見てしばらく悩みましたが、思い切って読んでみてよかったです(大袈裟だけど『アウトランダー』シリーズもロマンス小説なのかどうだろうかと読み始めるのに躊躇しました)。

忘れてた読書メモ

去年の終わり頃からあまり書いていなかったのでまとめて簡単に・・・。

『厭な物語』 (文春文庫)

クリスティー、ハイスミス他

11篇の後味の悪い物語が収録されています。
嫌さはそれほどでもないけど、もちろん自分の身に起こらなければの話で・・・。
日本の作家が含まれている『もっと厭な物語』も読んでみようと思います。


『プードルの身代金』『孤独の街角』『スモールgの夜』 (扶桑社ミステリー)

パトリシア・ハイスミス

3作とも長編です。どれも都会が舞台で、相容れない人間同士に起こる事件が描かれています。

『プードルの身代金』では山の手に住む余裕のある夫婦vs彼らに憧れる警官vs卑屈な誘拐犯、『孤独の街角』では自由に生きる娘と彼女の守護者たちvs偏見に凝り固まった男、『スモールgの夜』ではゲイの男性と見習い裁縫師の女性vs裁縫師の元締めであるゲイ嫌いの女と彼女に操られる男・・・と登場人物のタイプは様々ですが、違う種類の人間に対する憎悪や悪意、無理解がおそろしいです。
その一方、報われない愛もあります・・・。
いつもながらどんどんこじれてゆく人間関係がたまりません。


『動物好きに捧げる殺人読本』 (創元推理文庫)

パトリシア・ハイスミス

歩いているとき道路脇の溝の中にある排水パイプに目が留まり、パイプの中にネズミが入ってゆくシーンが思い浮かんで、何の映画だったっけ?としばらく考えてしまったのは、この短編集の一篇でした。
人によるかもしれませんが、私にはハイスミスの作品は脳内映像化されやすいような気がします。克明な情景描写ではないのに・・・というより、あいまいな部分があるせいで、よりイメージを補完しようという力が働くのかも?
動物好きに、と言っても動物が酷い目に遭わないわけではないので油断禁物です。

細い赤い糸 【発見】

飛鳥高 著(双葉文庫)

近松丙吉シリーズのドラマ版に編み物が登場したので原作を読んでみました。

期待どおり編み物が出てきましたが、ドラマ版とは全然違いました。
ドラマでは少女の母親が編んだ赤いカーディガンが中軸で色々とエピソードもありました。ところが小説では母親の話はほとんどなく、赤い糸も編み物ではなく綿のコートのものでした。

小説で編み物をしていたのは会社勤めの女性です。
昼休みに人気のないオフィスの真ん中でレースの手袋を編んでいて、同僚と話しながらも編みます。どんな編み方かわかりませんが、かぎ針の可能性が高いでしょうか。

別の登場人物の女性が
赤いざくざくに編んだセーターを着て
というのもあります。

現代の既存のシリーズに脚色したドラマに比べると、原作はもっと重くてやるせないです。
編み物の出番はドラマ版の方が多かったですね。

怪奇小説精華 【発見】

東雅夫 編(ちくま文庫)

「猿の手」 W・W・ジェイコブズ

願い事を三つ叶えてくれるという猿の手(のミイラ)に軽い気持ちで願い事をしたばかりに・・・という物語。
居間の暖炉の前で、父と息子がチェスを指しています。
息子に勝てない父が少し熱くなったところ、母もつい口を出す場面。
炉ばたでおだやかに編み物をしていた白髪の老夫人まで・・・
猿の手が出てくる前の、一家の日常風景です。

その昔『オーソン・ウェルズ劇場』でドラマ化を見ましたが、編み物のことは記憶にありません。確認しようにもDVD化されていないのが残念です。本国では第11話ですが日本の放送順では第1話ということもあり、特に印象に残っている人が多いようです。

動画サイトで見てみると、『オーソン・ウェルズ劇場』以外の映像化がたくさん見つかります。ちょっと見でも編みシーンがあるものがいくつか! そのうちちゃんと調査してみなくては・・・。
原題:The Monkey’s Paw


「占拠された屋敷」 フリオ・コルタサル

広い屋敷に静かに暮らしているうち四十代にさしかかった兄妹。
イレーネは生れつきもの静かでおとなしかった。朝の仕事が終ると、寝室のソファに腰をおろし一日中編物をしていた。どうしてあんなに編物ばかりしていたのか、ぼくにはその理由が分からない。女性が編物をするのは、それさえしていればほかの事をしなくてもいい格好の口実になるからだと思うのだが、イレーネの場合はそうではなかった。
この調子でまだまだ編み物のことが書かれていて全部は引用しきれません。

農場からお金が入ってくるので特にすることもない兄妹だけど、妹のイレーネは編み物にしか興味がなく、とにかく編んでばかりいたようです。そんな彼らの住む屋敷が少しずつ何者かに占拠され徐々に居住スペースが狭くなってゆき・・・という物語。

この兄妹が受け身体質で「掃除が楽になって編む時間が増えた」とか面白いです。
編み物発見!効果もあるけど、このアンソロジーの中で一番気に入りました。


この本には「ヴィイ」も収録されていましたが、『ロシア怪談集』と同じ訳者のもので、訳違いの読み比べとはなりませんでした。

おかいこぐるみ! 【発見】

以前ご紹介した「蚕三文記」がコミックスになります。
「おかいこぐるみ!」のタイトルで9/18発売予定。

シリーズ2期も『となりのヤングジャンプ』で連載中
↑あみぐるみ男子はもっぱらかぎ針編みだけど、トップページのイラストの背景はメリヤス編みですね。

前シリーズのネット公開は9/25までとのことです。
まだ読んでいない人は読んでおきましょう~。

ロシア怪談集 【発見】

沼野充義 編(河出文庫)

映画『悪魔の微笑み』(1972)に編み物が登場していたので、原作が収められた本書を読んでみました。


「吸血鬼(ヴルダラーク)の家族」 - ある男の回想より A.K.トルストイ

回想とあるように年配の男性が語る形式なのが映画と違いました。
映画化の方が面白かったというのが素直な感想です。
編み物は登場しませんが、主人公が恋する女性が糸つむぎをしていました。


「光と影」 ソログープ

影絵に魅せられてうつつを抜かしてしまう少年と母の物語。
この作品に編み物が出てきます!
二人は頑丈で不愛想な女中と三人で暮らしているのですが、まるで石のような彼女の顔を見ると、少年はよく彼女が何を考えているのか知りたくなったものだといいます。
・・・長い冬の夜、台所で、冷たい編み棒が、ときおりかすかに音をたてて、彼女の骨ばった手のなかで規則正しく動いてゆき、乾いた唇が音もなく数をかぞえてゆくとき・・・
この人の作品は初めて読みました。妖しいものにとらわれてしまう静かで消え入りそうな様が印象的です。他の作品も読んでみたくなりました。


「ベネジクトフ」 チャヤーノフ

小さな三角形のチップみたいなものの中に人の魂が入っていて、手に入れると他人を自由に操ることができるという話。なかなかユニークです。
主人公たちが身を寄せる家のおばさんが編みます!
・・・家事を終えて私たちのそばに腰をおろしたおばさんが編み棒をせっせと動かして靴下を編んでおり・・・


「怪談」かどうかはともかく、どれも楽しめる作品でした。
やっぱり一番はゴーゴリの「ヴィイ」で、映画化の『妖婆 死棺の呪い』(1967)が気に入っていましたが原作も良かったです。
主人公は神学校の哲学生で、この学生たちの野放図さというかおおらかさが、肝心の魔女との対決より面白いくらいでした。ある学生がどこかから食べ物をくすねて(本人は無意識)ポケットに入れておくと、そのうち別の学生が自分のポケットからのようにこれを取り出して食ってる・・・とか。
中世のウクライナ地方の神学校という話ですが、この神学生のいい加減さが出てる作品って他にないでしょうかね。もっと読んでみたいです(映画でも)。

ヴィイは『レジェンド・オブ・ヴィー 妖怪村と秘密の棺 』(2014)として再映画化されています。予告編ではだいぶ別物のようですが、いずれ見てみます。

重力の影

ジョン クレイマー著
Twistor (1989) 小隅黎・小木曽絢子訳

超ひもQを使った食べ物で編み物のときに思い出した本です。古本をひと箱いくらで買ったりすると、目当てじゃないものが忘れられて何年も積み上げたままになっていますが、これもそんな中の一冊でした。

そもそも著者は小説家ではなく物理学者で、「このごろ質のいいハードSFが出ないね」と友人にぼやいたら「それはきみが書かないからだよ」という挑発に乗せられて書いたといいます。(謝辞を要約)

物語の発端は、実験装置を作動させると”場”の物体が消える現象が起き、条件を変えて作動させると”場”の物体が地球の植物ではない木製の球体と置き換わっていたというものです。

読み始めてみると、ちょっと苦手パターン。
地球上を舞台にしたSFにありがちな、研究をめぐる政治的な背景など。実社会をモデルにしているから仕方ないのですが、特にハードSFに出てくるとガッカリなんです。本作も前半はそんな感じで大学の研究室に機材を提供している企業の思惑やら、それを利用している教授の思惑やらが出てきます。そんなことに煩わされずにサイエンス中心にできないものでしょうか。

そんな不満がたまり始めたところへ登場人物がサイバーパンクを小バカにするので、こっちも「あんたの言う質のいいハードSFってのを読ませてもらおうじゃないの」って構えちゃったりして・・・。

途中から劇的な展開があって最後まで飽きることはありませんが、著者の「質のいい」とは科学と似非科学の境界がうまくぼかされておりエンタメ性も満たしているということみたいです。ロマンス、子供、動物、サスペンスなどが盛り沢山、視覚に訴える要素が多いのでこのまま映像化してもかなりいけるんじゃないかと思いますが、そんな話はなかったのかな?

サイエンス部分を期待していただけに、都合の良すぎる展開と楽観的過ぎる結末はいただけませんでした。ネタはすごく面白いんですけどね~。