扉の向こう側 【発見】

パトリシア・ハイスミス著
People Who Knock on the Door (1983) 岡田葉子 訳

■あらすじ
アーサーは17歳、両親と15歳の弟の四人家族で平凡な暮らしをしていた。
あるとき弟が高熱を出し危険な状態になったが、幸いにも回復する。神に祈りが通じたと思い信仰に目覚めた父親は、家族にも信心を要求し始め・・・。

■雑感
ティーンエイジャーが主人公であり、その家族も主要な登場人物というのは今まで読んだ著者の長編とは違うパターンでした。
衝動的な行動を取る主人公が多い中、アーサーが自制心を発揮するのも意外だけど、他の人物のある意味ずさんな描写から来る雰囲気などは相変わらずだと思います。物語はあまりにも想像通りの展開で物足りないような、でも印象に残る作品です。

「扉の向こう側」というタイトルはブレイクスルーって意味合いで、抑圧された主人公が何か突破するような話なんだろうなと思っていたら、原題はそんなんじゃなくて来訪者的な意味でした。まあ、来訪者は「扉の向こう側」から来るわけだし、最後は「扉の向こう側」に出たとも言えるし、原題とは違うけど悪くないのかも。

■編みどころ
アーサーの母方の祖母は悠々自適の毎日を送っていて、遠方からたまに訪ねてきます。
祖母は、ソファに坐り、家で見つけたダークグリーンの毛糸で帽子を編んでいた。毛糸の量が少なくて帽子以外のものは編めないのだという。「おかしな子だこと」編物から目をあげずに祖母はいった。
人の家に来てありあわせのもので編むとは! ぜひ見習いたい・・・。


著者の短編集『11の物語』は、編み物は登場しませんが面白かったです。

同じく短編集『風に吹かれて』に収録の「ネットワーク」の登場人物はセーターを洗っていました。わざわざ書くくらいだから手編みなんだろうと勝手に判断しています。
こちらの短編集は『11の物語』に比べると救いがないダークなものが多く、珍しく超自然なものもありました。