贋作 【発見】

パトリシア・ハイスミス著
Ripley Under Ground (1970) 上田公子 訳

■あらすじ
前作『太陽がいっぱい』から6年後の話。
トム・リプリーは資産家の娘エロイーズと結婚し、それなりに何不自由なく暮らしている。それなりに、というのは義父からの援助なしには邸宅での生活を維持できず、すべて頼るわけにもいかないので、怪しげな仕事で収入を得ているため。

エロイーズとの結婚は打算ではなく彼女からのプロポーズで、トムも価値観の一致するエロイーズをいとおしく思っている・・・もちろん、すべてを打ち明けられるわけではないのだが。
そんな静かな生活の中、トムが関係する画廊のビジネスで問題が起こる・・・。

■雑感
トムが前作の事件でちょっとした有名人であり、警察にも真っ白でない微妙な立場でありながら、何でそんなことをという危険な綱渡りをします。かと言ってアドレナリン中毒なのではなく、トムとしては平穏な生活を守りたいだけ。けれど好感の持てる人物を放ってはおけない、という結果そうなってしまうのです。
贋作画家バーナードに対して感情移入して、あわやという事態に・・・。
物語は続編としても単体としても面白かったです。

■編みどころ
編みシーンはないのですが・・・。

トムは3年前に結婚してからフランス在住、今回の事件の発端であるアメリカ人のマーチソンとロンドンで会い、イギリス土産について会話する場面。トムがエロイーズのために、カーナビー通りでパンツを一着買ったと言うと、マーチソンも妻のために買い物したという話で
「・・・
毛糸を買うこともあるんですよ。家内は編物をやるんでね、自分の編んでおる毛糸が伝統あるイギリス製だと思うだけで気分がいいんでしょうな」
ふむふむ。どんな毛糸だったのかな?

そのほか、終盤トムが手頃な箱が必要になったとき、家政婦のマダム・アネットが取ってあった靴の箱を見つけて
箱の中にはきちんと巻かれた残り毛糸の玉が入っている。
マダム・アネットが編み物するってことでしょうね。


本作の映画化『リプリー 暴かれた贋作』(2005)を見てみました。
トム役がバリー・ペッパーというのはいかがなものかで、私のイメージするトムとは(エロイーズも)違っていました。でも、この映画はかなり脚色されていてコミカルなところもあり(原作も笑える展開はあるので、それを拡張していった感じでしょうか)、原作とは別物として、これはこれで悪くないかも。
編み物に関することは出てきませんでした。

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