太陽がいっぱい 【発見】

パトリシア・ハイスミス著
The Talented Mr. Ripley (1955) 佐宗鈴夫 訳

■あらすじ
貧乏青年トム・リプリーは、富豪のグリーンリーフ氏から、イタリアに滞在中の息子ディッキーをアメリカに連れ戻すよう頼まれた。ディッキーには帰国の意思はないが、トムは取り入ることに成功、彼の家に居候して一緒に遊び回ったり、しばらくは親しい友人のような生活が続く。
やがてディッキーの女友達マージの影響もあって関係が悪化すると、任務が失敗したトムは留まる理由がなくなった。しかしディッキーに執着するトムは・・・。

■雑感/編みどころ
あの有名な映画に編み物は登場しません。
それを読んでみるきっかけになったのは、映画『リプリーズ・ゲーム』(2002)でした。

映画『太陽がいっぱい』では主人公の犯罪は暴露されて終わりますが、小説は主人公のその後が描かれた作品が4つあり、シリーズになっています。
その中の『アメリカの友人』は、ヴィム・ヴェンダース監督の映画化が気に入っていたので、再映画化の『リプリーズ・ゲーム』にはあまり興味はありませんでした。
でもまあ、リリアーナ・カヴァーニ監督だから観ておこうかという程度で見始めたら・・・

・映画『リプリーズ・ゲーム』の発見

パーティの席で、額縁職人の妻サラとリプリーとの会話
ハープシコード奏者であるリプリーの妻が、演奏のため来られないと聞いて
私も楽器を弾くとか 創造力があればね

そのセーターは?

私が・・・

では 君はとても・・・ 創造力が
サラは幾何学模様のパッチワークのような半袖セーターを着ています。
(海外の編み物本で、日本風編み物として紹介されそうなタイプ)
その後、食い入るように見ていましたが編みシーンなどは無し。

だがちょっと待てよ・・・パトリシア・ハイスミスと言えば『ふくろうの叫び』が小説にも映画化(1987)にも編み物が登場していて・・・ってことは映画と異なることで知られる小説『太陽がいっぱい』にも可能性が・・・ということで読んでみて発見しました!

・小説『太陽がいっぱい』の発見

トムはマージに好意を持っておらず嫌悪感さえ抱いています。
だから「マージは編み物をしていた」程度で詳しい表現ではありませんが、ディッキーに3ヶ月くらいかけて編んでいたセーターのことも登場します。

それならとマット・デイモン版の映画をチェックしたけど発見できず。
こちらはリプリー像が比較的原作に近いのですが、小説のようにトムがサインや口真似だけでなく外見までディッキーに似せることができる(トムの自己同一性の危うさ?)という設定ではありませんでした。そのほかはトムの嗜好が露骨過ぎる、マージが好人物に描かれている、というのも違うところ。そして、ラストのピーターが気の毒なのも・・・あれ~?
原作を読んでからだったので、違う部分が意外と面白かったけれど。

そもそも『アメリカの友人』を見た頃は原作のことは知らなかったし、映画化だけでは『太陽がいっぱい』と『アメリカの友人』が関係あるとは気づかずにいました。
今更ながら要チェックです!


・・・散漫になってしまいました。
整理すると

小説『太陽がいっぱい』の映画化はアラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』(1960)
再映画化はマット・デイモン主演の『リプリー』(1999)

小説『アメリカの友人』の映画化はデニス・ホッパー主演の『アメリカの友人』(1977)
再映画化はジョン・マルコヴィッチ主演の『リプリーズ・ゲーム』(2002)
(主演=リプリー役ということで)

映画『太陽がいっぱい』見る→編み物なし
映画『アメリカの友人』見る→編み物なし
映画『ふくろうの叫び』見る→編み物発見!
(このあたりまでは当初編み物は意識せず)

小説『ふくろうの叫び』読む→編み物発見!
映画『リプリーズ・ゲーム』見る→編み物の話発見!
小説『太陽がいっぱい』読む→編み物発見!
映画『リプリー』見る→編み物なし

こんな感じです。
小説『アメリカの友人』に早速取り掛かりたいけど、その前の話があるのでシリーズを順番に読んでいこうと思います。映画化もまだ見ていないものがあるし、シリーズ以外の作品も・・・。

関連記事:
リプリー終わり
リプリーシリーズ3作目
贋作 【発見】

ピーターラビット 【発見】

ビアトリクス・ポター著
Peter Rabbit (1902-)
ピーターラビットのことはキャラクターとしてしか知りませんでした。
「ピーターラビットの絵本シリーズ」というタイトルで何冊も出ているものだから、全部ピーターラビットが登場していて、長い話だとか、いくつもの話があるのだと思っていましたが、予想に反して他の生き物たちが主役の話が多いのでした。

『ペンジャミンバニーのおはなし』(絵本版 いしいももこ 訳)
『ピーターラビットのおはなし』の続きで、マグレガーさんのところで失くしたピーターの上着を取り返したりするお話。ベンジャミンはピーターのいとこで、ピーターのおかあさんはベンジャミンのおばさんにあたります。ピーターに妹?が3匹いるので、ベンジャミンにはいとこがたくさんいます。

ピーターのおかあさんが棒針編みをしていて、毛糸玉が転がっている挿絵があります。
うさぎの毛の手ぶくろやそで口かざりをあんで、くらしをたてていました。
と、雑貨屋さんをやっているような説明があります。

これは『ばにばにベンジャミンのはなし』というタイトルで青空文庫でも読めます!
ビアトリクス・ポターの他の作品は 作家別作品リスト:No.1505 から。

ピーターラビットとベンジャミンバニーのおはなし(1992年のアニメ版)
上記の映像化作品です。↑DVDはこの挿絵が表紙になっています。
ピーターのおかあさんが娘たちと一緒に売り物の手ぶくろ(ミトン)をテーブルに並べている場面があり、下に毛糸玉が落ちています。


他の絵本では
『ひげのサムエルのおはなし』に猫のタビタおくさんと編み物の挿絵、
『アプリイ・ダプリイのわらべうた』には、靴の中に住んでいたはつかねずみのおばあさんが棒針編みをしている挿絵、
『こぶたのロビンソンのおはなし』には、どこになにがあるやらわからない、ごったがえした羊の毛糸屋さんなどが登場しました。

アニメ版の他のお話やバレエ映画『ピーターラビットと仲間たち』(1971)(原題は “Tales of Beatrix Potter”、うさぎたちは脇役)に編み物は登場しませんでした。


遅ればせながらピーターラビットを知るきっかけになったのは、映画『ロレンツォのオイル/命の詩』(1992)でした。終盤、ロレンツォに母親が本を読み聞かせていて、それが
ウサギ夫人は未亡人で
ウサギの毛で手袋を編んで
暮らしを立てていたのです
というもので、「なんだそれは!」と調べてみるとピーターラビットだったというわけです。
まだまだ知らない事ばかりで・・・。
この映画はニットの登場も多めでした。

私が棄てた女 【発見】

1969年 日活
監督:浦山桐郎
出演:河原崎長一郎、浅丘ルリ子、小林トシエ、江守徹、加藤武
原作:遠藤周作『わたしが・棄てた・女』

■あらすじ
貧乏学生の吉岡は、田舎から出てきて工場で働いているミツと、欲望を満たすためだけに関係した。ミツは吉岡に棄てられ体調を崩し、借金もできて絶望の毎日を送っている。
一方、吉岡は就職した会社の社長の姪と結婚して順風満帆に見えたが・・・。

■雑感/編みどころ
ミツは寝起きしている飲食店の2階で、濃い色の毛糸で棒針編みしていました。
工場で同僚だった女が訪ねてきて編み物の上に座り「イテッ! 何だいこりゃ?」となります。「吉岡さんに会ったらやるか?」(あげるのか?)などと見込みがないと知りながらも図星のようなことを言って嘲弄します。

映画を観てから原作を読んで、内容がかなり違うので驚きました。
原作にない下世話な事柄が盛り沢山に詰め込まれているし、特にミツの最期については、作者の立場からあれでいいのだろうかと。
でも作者が出演もしていることから、不本意な脚色ではないのでしょう。そのまま映像化したからといって小説と同じになるわけではないから、映画なりの表現に任せたのでしょうか?

時間が経ってみると、この映画化も悪くないように思えます。吉岡、ミツ、マリ子(吉岡の妻)という3人の思いがそれぞれあって(原作にはほとんど名前くらいしか出てこないマリ子の存在が大きくなっているのは、浅丘ルリ子を主役級にせねばという理由があったのかどうかは存じません)結果として心に訴えるものになっています。
何と言っても小林トシエが演じるミツの完成度が高くて、他の人物も存在感があるし、当時の風俗の描き方も良い意味で時代を感じられますが、映像面ではやや疑問あり。

熊井啓監督の映画化『愛する』(1997)は、設定には原作に忠実な部分があるものの、上辺だけで真に迫っていないように思います。

Wikiにフランス映画『天使の肌』(2002)が「原作の翻案ではないかと言われている」とありました。なるほど・・・言われてみれば共通点があり、たしかにそう思えなくもないですね。この映画はニットが多めだったので記憶にありました。

原作小説、『愛する』ともに編み物は登場しませんでした。

翻案の翻案

『幽霊塔』 江戸川乱歩

黒岩涙香版を読んだので、次は江戸川乱歩版です。
明治時代とは違って文章も読みやすく、人名や地名が完全に日本化されていて違和感がありません。細かい部分が省略、変更されていますが、大筋はそのままでした。

筋書きを知っているせいもあるかもしれないけど、緊張感や不気味さには乏しく(特に養蟲園の描写があっさりしすぎ)、ヒロインの魅力も物足りなく感じました。主人公の尊大さが抑えられていたのは良いのですが、全体に小粒になってしまった気もします。
プロローグとエピローグは平和なので、本編はドラマチックにしてほしかったけど、涙香版では冗長すぎるし・・・でも乱歩版を読んだことで、涙香版の良さも認識できたのは収穫でした。

あとは原作の『灰色の女』(A.M.ウィリアムスン)ですが、これが『白衣の女』(ウィルキー・コリンズ)から設定を借りているらしいので、『白衣の女』を先に読むつもりです。

海洋奇譚

『夜の声』 ウィリアム・H・ホジスン

井辻朱美 訳

映画『マタンゴ』(1963)の原作で、以前から読みたかった表題作をはじめ8つの作品からなる短編集。1作を除き、航海する船が遭遇する不思議な出来事が描かれています。

『夜の声』(1907)は、脚色されたドロドロした映画(これはこれで良いのですが)と違い、遭難した男性の体験談として語られる静かで哀しい物語でした。
他の作品もサルガッソー海の伝説をベースにしながら、自然現象として説明がつきそうな部分もあり、そうでなくても単なるホラ話や怪談で済ませられない神秘的なものがあります。
書かれて一世紀以上を経ても、海にはまだ謎や危険が満ちているからでしょうか・・・。

アウトランダー2冊

「遥かなる時のこだま(1)(2)」 ダイアナ・ガバルドン

An Echo in the Bone (2009) 加藤洋子 訳

『アウトランダー』シリーズの21、22冊目です。
最初のうち話が3方向に分かれていることや、前作からの空白を埋める説明が足りない面もあり、散漫な印象です。何か起こりそうな落ち着かない感じが漂っています・・・。
次が現在のところ最終巻だけど、ちょっとお休み。
6月に新刊が出るらしいのですが、日本語訳はいつ頃でしょうね?
前作だと2年(これでも早いくらい?)かかっているし、だいぶ先かな・・・。

久々の奇想系

『十三回忌』 小島正樹

帯も見ないで何の予備知識も無く読み進め・・・え?
巻末の島田荘司の文を読んで納得。
ある時期までの島田作品はほとんど読んでいたけど、しばらく遠ざかっていてパロディ小説や周辺の人たちも知りませんでした。なるほどね~。
中途半端で気に入らないところもあるけど、今後に期待ということで。

ロード・ジョン・グレイ3作目

『ゲールの赤き火影』 ダイアナ・ガバルドン

The Scottish Prisoner (2011) 加藤洋子 訳

『アウトランダー』シリーズの登場人物のひとり、ロード・ジョンが主人公の物語。
現在読んでいる本編(20)より十数年前の話です。
過去2作はジョンがメインだったけど、今回はジェイミーがかなり登場して、まだ幼い息子への愛情やクレアと子供を案ずる思い、それを見守る?ジョンの心情などが綴られており、スピンオフというより本編とセットで両方美味しくなるという内容でした。

このシリーズの読みどころにジョンの恋愛がありますが・・・前作にも登場していた人物と深い関係になり、それが肝心のシーンで曖昧な表現になっていて、逆にどういう状況なのかとあれこれ想像してしまいました。
ジョンが意外と空想癖があるキャラになっているのも笑えます。

本編の新作も本国では来年出版予定なので、そろそろ21巻以降を読んでおこうかな。

ペット・セマタリー 【発見】

スティーヴン・キング著
Pet Sematary (1983) 深町眞理子 訳

映画版で見つけた飛行機の中の編みシーンはありませんでした。

ほとんど登場しないのですが・・・。
妻のレーチェルが「手にしていた編み物を置いて」という場面がありました。
また、飼い猫が小さかった頃「毛糸の玉にたわむれていた」ことを思い出す場面も。
この家庭には編み物があったのですね~。

スティーヴン・キングの小説はほとんど読んでいないのですが、他にも発見できそうな気がします。映画化されているものから読んでみようかな・・・。

炎の山稜を越えて(3)(4) 【発見】

ダイアナ・ガバルドン著
A Breath of Snow and Ashes (2005) 加藤洋子 訳

『アウトランダー』シリーズの19、20冊目です。
まったくもう、よくまあ次々と大変な事件が起こるものです。
さらに今回は物語が大きく動きます。
予想はしていたけどそういう理由か・・・なるほどね。
一時は中だるみしたと思ったけど、ぐいぐい引っ張られてゆきます。

編みシーンはないのですが、編んだものはちょこっと出てきます。
それだけでは何てことないけど、裁縫袋が逆さにされて編み物と毛糸などが落ちる・・・という場面がかなり重要なので、これは発見!ってことで。