ロシア怪談集 【発見】

沼野充義 編(河出文庫)

映画『悪魔の微笑み』(1972)に編み物が登場していたので、原作が収められた本書を読んでみました。


「吸血鬼(ヴルダラーク)の家族」 - ある男の回想より A.K.トルストイ

回想とあるように年配の男性が語る形式なのが映画と違いました。
映画化の方が面白かったというのが素直な感想です。
編み物は登場しませんが、主人公が恋する女性が糸つむぎをしていました。


「光と影」 ソログープ

影絵に魅せられてうつつを抜かしてしまう少年と母の物語。
この作品に編み物が出てきます!
二人は頑丈で不愛想な女中と三人で暮らしているのですが、まるで石のような彼女の顔を見ると、少年はよく彼女が何を考えているのか知りたくなったものだといいます。
・・・長い冬の夜、台所で、冷たい編み棒が、ときおりかすかに音をたてて、彼女の骨ばった手のなかで規則正しく動いてゆき、乾いた唇が音もなく数をかぞえてゆくとき・・・
この人の作品は初めて読みました。妖しいものにとらわれてしまう静かで消え入りそうな様が印象的です。他の作品も読んでみたくなりました。


「ベネジクトフ」 チャヤーノフ

小さな三角形のチップみたいなものの中に人の魂が入っていて、手に入れると他人を自由に操ることができるという話。なかなかユニークです。
主人公たちが身を寄せる家のおばさんが編みます!
・・・家事を終えて私たちのそばに腰をおろしたおばさんが編み棒をせっせと動かして靴下を編んでおり・・・


「怪談」かどうかはともかく、どれも楽しめる作品でした。
やっぱり一番はゴーゴリの「ヴィイ」で、映画化の『妖婆 死棺の呪い』(1967)が気に入っていましたが原作も良かったです。
主人公は神学校の哲学生で、この学生たちの野放図さというかおおらかさが、肝心の魔女との対決より面白いくらいでした。ある学生がどこかから食べ物をくすねて(本人は無意識)ポケットに入れておくと、そのうち別の学生が自分のポケットからのようにこれを取り出して食ってる・・・とか。
中世のウクライナ地方の神学校という話ですが、この神学生のいい加減さが出てる作品って他にないでしょうかね。もっと読んでみたいです(映画でも)。

ヴィイは『レジェンド・オブ・ヴィー 妖怪村と秘密の棺 』(2014)として再映画化されています。予告編ではだいぶ別物のようですが、いずれ見てみます。

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