幽霊塔の原作

『灰色の女』 A・M・ウィリアムスン

A Woman in Grey (1898) 中島賢二 訳(論創海外ミステリ)

ようやく黒岩涙香版『幽霊塔』の原作である本書を読み終えました。

涙香版は人名や場所の名前が変えられていたので、ほかにも大きな変更が加えられているのだろうと思っていたら、省略と誇張はあるものの全体としては原作にかなり忠実でした。

涙香版の登場人物のキャラは全体的に濃く、主人公はより尊大に、ヒロインはより崇高に、サスペンス部分は強調され、悪く言えばくどいので読み終えた際にはその大仰さに辟易していましたが、『灰色の女』を読んでみると原作はあっさりしてて物足りなく思えたりもします。
涙香版が当時の文体なので、現代の翻訳の原作と比べて古く感じるという面もあります。

涙香版の養蟲園は原作より不気味だし、パリの医者の部屋の印象も強烈です。
そういえばこの辺りは乱歩がとても好きそうなのに、乱歩版ではさほど怪しさは感じませんでした。何故でしょうね? この話のロマンス面を重視したのでしょうか。

原作、涙香版、乱歩版、それぞれに良さがあるというありがちな結論になってしまいますが、原作が発表されて間もないうちに『幽霊塔』のような翻案に仕上げた黒岩涙香を素直に賞賛したいと思います。


少し期待した編み物は登場しませんでした。
1920年にアメリカで映画化されているので、これもチェックしてみるつもり。

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